はじめに
企業経営において近年、パーパス(Purpose)という言葉が注目を集めています。パーパスは英語では一般的に「目的」を意味しますが、経営の現場では「社会での存在意義」と訳され、自社の事業と社会との関係性を重視した経営手法として日本企業の間でも取り入れる企業が増えています。そこで、今回はパーパスとは何か、そしてなぜ今パーパスが注目を浴びているのかについて掘り下げていきたいと思います。
パーパスが今、注目される理由
パーパスという単語自体は英語に由来するものの、「会社は何のために存在し、そこで働く従業員は何を目的にして働いているのか」といった概念を大切した経営スタイルは決して真新しいものではありません。特に日本では、近江商人の経営哲学が発祥とされる「三方よし」に代表されるように、古くから企業と顧客、そして世間(社会)がともに幸せになるような経営を理想に掲げてきた企業は少なくありません。
これに対し、米国では「企業は株主利益の最大化を追求するべきである」とした株主資本主義が長らく企業経営の原則とされてきました。企業には顧客や従業員、取引先(サプライヤー)、コミュニティ、株主などのさまざまなステークホルダー(利害関係者)が存在しますが、一言で言うと米国では株主を最優先する経営が主流だったのです。
しかし、2019年に米国のビジネス界に大きなインパクトをもたらした声明が発表されます。これを転機に株主資本主義からの脱却とパーパス経営へのシフトが世界中で注目を集めるようになりました。
米大手企業がパーパス経営へのシフトを宣言
この声明は、AppleやAmazon、Walmartなどの米国の大手企業から構成されるロビー団体である「ビジネス・ラウンドテーブル」が2019年8月に発表した「企業の目的に関する声明」と題された公開書簡で明らかにされました。
声明は具体的に企業活動を通じて以下の取り組みにコミットすることを宣言した上で、企業は株主利益の最大化だけでなく、パーパスの実現を目指す経営に舵を切るべきだと提言をしたのです。
1)顧客に価値を提供する。
2)従業員に対して適切な投資を行う。
3)取引先を公平に扱う。
4)自社が属するコミュニティ(地域社会)を支援する。
5)株主に対して長期的な価値を創出する。
すべてのステークホルダーは重要な存在であり、我々はあらゆるステークホルダーに対して価値を提供することを通じ、企業、地域社会、国の将来的な成功に向けて貢献していく。
パーパスがより重要になっている理由
このように世界的に大きな影響力を持つ米大手企業がパーパスを重視するようになったことで、日本でもパーパス経営に注目が集まるようになったわけですが、ではなぜパーパス重視の経営が求められるようになったのでしょうか。
この理由のひとつに、近年のデジタル技術の発展や世界的な気候変動など、さまざまな要因を背景にビジネスを取り巻く環境が大きく変化していることが挙げられます。このほかにも複数の理由があるかと思いますが、今回は以下に3つほどまとめてみました。
1)先行き不透明なVUCAの時代を迎え、ステークホルダーと協調する必要が高まっている
近年はVUCAという略語が経営の議論に上がることも少なくありません。VUCAとは英語の以下の単語の頭文字を取った略語で、「先行きが不透明で、将来を予測することが困難な状態」を意味します。
V(Volatility:変動性)
U(Uncertainty:不確実性)
C(Complexity:複雑性)
A(Ambiguity:曖昧性)
そうした不確実性の高いVUCAの時代において企業をうまく経営していくためには、自社に関わる幅広いステークホルダーとのコミュニケーションがより大切になっています。つまり、あらゆる利害関係者に自社が進むべき方向性を示し、理解や共感を得ながらベクトルを合わせることで経営の力に変えていく取り組みとしてパーパスが注目を集めているとも言えます。
実際、企業ブランディングの領域では自社や自社製品に「共感してもらう」ことで認知や支持を獲得していくことがますます重要になっています。そのためには自社の業績(対株主目線)や製品の機能や性能(対顧客目線)だけをアピールするのではなく、社会や環境への貢献といった視点で自社の存在意義を捉え直すことで、株主や顧客以外のより幅広いステークホルダーとの関係を構築していくことが可能になります。なお、昨今話題のデザイン思考なども従来の手法が通用しないVUCAの時代だからこそ、イノベーション創出に役立つ新たなアプローチとして脚光を浴びていると言えます。
2)ミレニアル世代の台頭により「意味」を気にする消費者が増えている
また、米国をはじめ、世界では1980年代から2000年までの間に生まれた「ミレニアル世代」が消費活動の中心を占めるようになっており、従来とは大きく異なる価値観に基づいた消費スタイルが台頭しています。ミレニアル世代の大きな特徴のひとつとして、モノに執着しないという性質がしばしば挙げられます。つまり、ミレニアル世代は自分たちの親世代と比べて物欲や所有欲が低く、必要のないものにはお金を使わない傾向が強い世代です。
その一方で、彼らは消費活動に「自分たちの存在意義」や「社会とのかかわり」などの意味を求める傾向が強く、機能や価格以上に社会や環境をより良くする製品やサービスを好むと言われています。このため、彼らが製品やサービスを比較検討する際には、そのメーカーや製品の成り立ちや存在意義などが差別化要因として意識されることが多いと言えます。最近になって企業がパーパスを取り入れようとしている背景には、こうした新しい消費者に企業が寄り添っていく姿勢を強めているということも挙げられるでしょう。
3)イノベーションを促進する土台づくりとして注目されている
このほか、あらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる中、イノベーションの創出に対する企業のニーズがかつてないほど高まっていることもパーパスの普及を後押ししています。
一見するとパーパスとイノベーションはあまり相互に関連性がないように思われますが、終身雇用かつ縦割り組織で人の流動が少ない日本企業は、部署や会社、業界を横断した取り組みが苦手で、イノベーションが起きにくい組織体制になっていると言われています。しかし、組織横断型のプロジェクトを進める際、あらためてパーパスを定義することによって自社の内外にいる多様な人材を結集し、コラボレーションを加速化する土台づくりを進めることができます。
また、目指すゴールのために多様な人材に活用してもらうためには、パーパスを起点にした組織づくりを進めることも有効とされています。実際こうした取り組みを通じてよりイノベーションを起こしやすい組織風土改革を展開している企業もあります。
おわりに
今回はパーパスが今なぜ注目されているのかについてご紹介しました。こうした動きは単に企業の経営全体だけにとどまらず、今後は個々の製品やサービスに対しても「存在意義」を問う流れが加速する可能性があります。
ソフトウェア開発においては現時点ではそこまでパーパスを意識した取り組みがなされているわけではありませんが、将来的には「動くシステム・アプリであること」はもちろん、「ユーザーや社会にとっても意味のあるシステム・アプリであること」が求められるようになる時代がやってくるかもしれません。その意味ではパーパスを正しく理解しておくことは、ソフトウェア製品の開発や設計に携わる人々にとっても決して無駄ではないと言えるように思います。
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