DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な人材の役割とは

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な人材の役割とは

はじめに

過去2回にわたり、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、DX)の定義や企業が取り組むべきポイントについて解説してきました。ただ、企業がDXを成功に導くためには、どのような役割の人材が必要になるのかを十分に理解した上で自社に求められる人材を確保、育成していくことが欠かせません。そこで今回はDX実現においてカギとなる人材に焦点を当ててみることにします。

<連載記事一覧>
1. あらためてデジタルトランスフォーメーション(DX)とは
2. DX(デジタルトランスフォーメーション)に成功している企業の特徴とは
3. DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な人材の役割とは ←本記事

ガートナーが唱える5つの役割

DXを推進するために必要な人材は「DX人材」、または「デジタル人材」と一括りに呼ばれることもありますが、その職種や役割はさまざまです。DX(デジタルトランスフォーメーション)は特定の部門で対処するべき課題ではなく、全社を挙げて取り組むべき経営課題であることから、似たような能力を持つ人材を一通り集めてプロジェクトを発足させても部門の壁などに阻まれ、うまくいかないというケースも少なくありません。このため、あらかじめ人材の役割を明確にした上で、それぞれの目的に沿って適切な人材を配置することが欠かせません。

ガートナージャパンが2021年8月に発表した「デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な5つの役割」によると、日本企業は必要な人材に対する理解が不十分のままトップダウンでDXに着手する傾向が多く、ガートナーはこうした見切り発車型の取り組みでは求める人材が分からないまま育成もうまくいかないという悪循環に陥っていると指摘しています。その上で、企業がDXを推進するために必要な人材のタイプとして、以下の5つの役割を挙げています。

1. ビジネス系プロデューサー (ビジネス・アーキテクト):
DXによるビジネス・ゴールを定義し、新たなビジネス・モデルを考えたり、DXに関する企画を考えたりする役割を担う。経営層や社内外の意思決定者とのビジネス面でのコミュニケーションにも責任を持つ。

2. テクノロジ系プロデューサー (テクノロジ・アーキテクト):
ビジネス・ゴールの達成に向けた最適なデジタル・テクノロジの特定やテクノロジの適用によるシステム面の影響の分析、予測などを担う。経営層や社内外のエコシステムのパートナーに対する技術面のコミュニケーションにも責任を持つ。

3. テクノロジスト (エンジニア):
現場で実際にテクノロジを活用する役割を担う。自動化、データ・サイエンス、モノのインターネット (IoT)、人工知能 (AI) などの新興領域に注目しがちだが、確実にDXを推進していくためには、通信ネットワーク、IT基盤、セキュリティ、クラウドなどの既存の領域の役割も重要である。テクノロジストもまた、全従業員が対象となる。

4. デザイナー:
ソリューション、サービス、アプリケーションのユーザー・エクスペリエンス (UX) をデザインする。UX面のコミュニケーション、UXとデザインに関する知識の社内普及に向けた教育なども行う。

5. チェンジ・リーダー:
デジタル・テクノロジの導入に伴う働き方 (業務、意識など) のシフトの主導、変革の目的やゴールの整理、変革のコミュニケーション計画の作成、関係者全員を巻き込んだ意識と行動変容に向けた施策の計画/展開などを担う。

出典:「デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な5つの役割」(ガートナージャパン、プレスリリース)

チェンジマネジメントの重要性

また、上記に掲げた5つの役割の補足としてガートナーが指摘したのが以下の3つのポイントです。あらためて整理すると、あらゆる役割を一手に担えるスーパーマンのような人材を当てにするのではなく、役割ごとに必要な人を割り当てチームで変革を進めながら、究極的には全従業員に「自分もDXの担い手である」という意識を根付かせることが大事であることがわかります。

1) 理想的には全従業員がビジネス系プロデューサーであるという意識を持って取り組むことが企業としてのDXの成功につながる。

2) チェンジ・リーダーを立てることは、社内のDXをスケールアウトするための重要なポイント。チェンジ・リーダーは必ず社内のメンバーで担い、DXを推進する専門部署や経営企画などを中心に、社内全体に配置するのが望ましい。

3) 5つの役割にすべて1人で対応することは現実的に考えにくいシナリオであり、1つの役割を1人もしくは2つの役割を1人で担うところから計画を進めることが、地に足の着いたDX人材の育成につながる。

また、5のチェンジ・リーダーという役割は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進のためには自社の組織風土を大きく変革することにもセットで取り組むことが欠かせないことを示しています。つまり、DXを実現するには、全社横断型のプロジェクトを管理、推進することに加え、組織変革のためのマネジメント、すなわちチェンジマネジメントに取り組むことが重要になります。

社内の抵抗勢力に向き合うために

実際、DXがうまくいかない要因としてしばしば挙げられるのが「社内の抵抗勢力」の存在です。DXによって業務プロセスが変わり、自分の所属する部門やポジションが脅かされる場合や、そもそも変革の必要性を感じていないケースでは、将来に対する不安や現状を肯定する従業員からの協力が得られないことが少なくありません。このため、DXを成功に導くには、こうした人々の抵抗に向き合い、彼らに寄り添いながら変革に対する理解を求め、施策を展開していくことが欠かせません。その意味でも、チェンジマネジメント能力は、DX推進においても重要な武器となり得ます。

チェンジマネジメントとは

日本チェンジマネジメント協会によると、チェンジマネジメントは以下のように定義されています。

チェンジマネジメントとは、変⾰に対する⼈の⼼理的な抵抗を和らげ、変⾰をスムーズに進める⼿法です。体系的なアプローチを通じて、変⾰の影響を受ける人々が、いち早く移行できるように支援します。

日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、欧米では組織変革のディファクトスタンダードとして、世界有数のビジネススクールでリーダーの必須ナレッジとして教えられ、Fortune 500企業など多くのグローバル企業で採用され、オーストラリアでは、政府が認める職務・能力として、国家能力基準に定義されています。

出典:チェンジマネジメントとは(日本チェンジマネジメント協会)

チェンジマネジメントでは抵抗は必ず発生するという前提の下、変革プロジェクトの初期のタイミングで起こりうる抵抗を事前に洗い出し、社内の抵抗勢力によって変革が失敗しないようリスク対策(抵抗管理)を講じます。具体的には以下の3つの原則を考慮して対策を立てますが、DXを実行するメンバーはこうした人の意識や考え方にも十分に配慮しながら取り組みを推進することが重要になります。

抵抗管理で重要な3原則

1) ゴール、変革がもたらすもの、変わらなければ発生する損失を伝える
なぜ変わらなければいけないのか、変わることによってどのようなベネフィットがあるのか、何を目指しているのかに納得しないと人は動きません。そのため、必ず「ゴール」「変革がもたらすもの」「変わらなければ発生する損失」を明確に伝えるということを行います。気を付けるべきポイントとして、変革メンバーの視点でなく、相手の視点に立ってこれらを伝える必要があります。なぜならば、人は自分に関係すること、興味があることしか、耳に入らないからです。

「伝えた」=「伝わった」ではないことを念頭に置いて、伝える内容を構成する必要があります。

2) できるだけ早い段階で変革の活動に巻き込む
人は自分の計画には反対はしません。変革の計画を立てるときに、意見を聞いて、よりよい計画をつくることで味方になってもらえるという効果があります。最初の段階で巻き込んでおかないと、変革を他人事ととらえ、協力を得られなくなる可能性があるので早めの対応が重要です。

3) 変革のステップを実行しやすいものにする
変わるためにやらなければいけないことが難しいと、人は動こうとしません。いくらやる気があっても、やることが難しければ人は戸惑い、前に進むのをやめてしまいます。

そのため、やるべきことを実行しやすいレベルにブレイクダウンして、無理なく実施できるようにお膳立てすることがキーとなります。

出典:人はなぜ変化に抵抗するのか?社内の抵抗にあう前に実施するチェンジマネジメント施策(日本チェンジマネジメント協会)

おわりに

このようにDX推進のためには、まず自社内で求める人材の役割を明確にした上で、デジタル技術の導入を加速させるためにそれぞれの能力や強みをうまく組み合わせていく必要があります。同時に、デジタル技術を活用した先に広がるビジネス機会を捉えられるよう、目指すゴールを示しながら組織風土を変革していくアプローチが欠かせません。

次回はこうしたDX(デジタルトランスフォーメーション)に関わる人材に求められる共通のスキルや知識についてみていくことにします。