はじめに
過去2回にわたり、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、DX)の定義や企業が取り組むべきポイントについて解説してきました。ただ、企業がDXを成功に導くためには、どのような役割の人材が必要になるのかを十分に理解した上で自社に求められる人材を確保、育成していくことが欠かせません。そこで今回はDX実現においてカギとなる人材に焦点を当て、どのような人材がDX推進に必要なのかを解説します。
<連載記事一覧>
1. あらためてデジタルトランスフォーメーション(DX)とは
2. DX(デジタルトランスフォーメーション)に成功している企業の特徴や事例とは
3. DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な人材とは ←本記事
4. DX人材に求められるスキルとは
DX推進に必要な人材の特徴
経済産業省が発表した「DXレポート~『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」によると、2025年にはDX人材の大幅な減少が予測されています。また、諸外国と比較して日本のDXの取組はおくれを取っており、DX人材の育成が急務とされています。そのような背景のなかで情報処理推進機構は「デジタルスキル標準」を発表しました。「デジタルスキル標準」を参考に、DX推進に必要な人材の特徴をお伝えします。「デジタルスキル標準」は、2つの基準で構成されています。
DXリテラシー標準とは
「DXリテラシー標準」とは、経営層から従業員までがDXの基礎知識やスキル・マインドを身につけるための指針です。価値観や社会・経済の変化を理解しDXの重要性を認識する「Why」、データやデジタル技術の最新情報を知り背景を理解する「What」、活用事例や基本ツールを学んで実践する「How」、そして価値創造に向けたマインドと行動の見直しを行う「マインド・スタンス」で構成されています。
出典:情報処理推進機構「デジタルスキル標準」
「マインド・スタンス」「Why」「What」「How」のそれぞれの具体的なスキルと内容、学習項目がまとめられており、DXに関する基礎的な知識・スキル取得に向けて自身の行動の振り返りや学習を進めることが可能です。
出典:情報処理推進機構「デジタルスキル標準」
DX推進スキル標準とは
「DX推進スキル標準」とは、DX推進に必要な人材を5つのタイプに分類し、それぞれの役割やスキルを標準化したものです。「DXリテラシー標準」と比較して、より専門的に自社のDX推進に必要な人材や、求められる知識・スキルの指針を示します。 次に「DX推進スキル標準」が分類している5つのタイプを説明します。
1. ビジネスアーキテクト:
DXの取組においてのゴールを定義し、経営層や社内外の意思決定者とコミュニケーションを取りながらゴールの達成に向けて推進する人材。
2. デザイナー:
ビジネスや顧客視点を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発プロセスを策定し、デザインをリードする人材。
3. データサイエンティスト:
DX推進において、データを活用した業務改善や新たなビジネスの創出に向け、データの収集・分析体制の設計から実装・運用までを担当する人材。
4. ソフトウェアエンジニア:
DX推進において、デジタル技術を活用した製品やサービスのシステム設計、ソフトウェアの実装・運用を担う人材。
5. サイバーセキュリティ:
デジタル環境での業務プロセスにおけるサイバーセキュリティリスクを軽減する対策を担う人材。
5つのタイプを業務の違いで区分した「ロール」を設定しています。また、それぞれのロールがDX推進において担う責任も記載されています。「DX推進スキル標準」を参考にすることで、自社のDX推進に必要な人材の検討に役立つヒントを得られるのではないでしょうか。
出典:情報処理推進機構「デジタルスキル標準」
社内の抵抗勢力に向き合うために
DX推進に必要な人材の特徴をお伝えしましたが、次にDXがうまくいかない要因に注目してみたいと思います。DXがうまくいかない要因としてしばしば挙げられるのが「社内の抵抗勢力」の存在です。
DXによって業務プロセスが変わり、自分の所属する部門やポジションが脅かされる場合や、そもそも変革の必要性を感じていないケースでは、将来に対する不安や現状を肯定する従業員からの協力が得られないことが少なくありません。このため、DXを成功に導くには、こうした人々の抵抗に向き合い、彼らに寄り添いながら変革に対する理解を求め、施策を展開していくことが欠かせません。
このような状況においてDX推進において重要な武器となり得るのが「チェンジマネジメント」になります。
チェンジマネジメントとは
日本チェンジマネジメント協会によると、チェンジマネジメントは以下のように定義されています。
チェンジマネジメントとは、変⾰に対する⼈の⼼理的な抵抗を和らげ、変⾰をスムーズに進める⼿法です。体系的なアプローチを通じて、変⾰の影響を受ける人々が、いち早く移行できるように支援します。
日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、欧米では組織変革のディファクトスタンダードとして、世界有数のビジネススクールでリーダーの必須ナレッジとして教えられ、Fortune 500企業など多くのグローバル企業で採用され、オーストラリアでは、政府が認める職務・能力として、国家能力基準に定義されています。
チェンジマネジメントでは抵抗は必ず発生するという前提の下、変革プロジェクトの初期のタイミングで起こりうる抵抗を事前に洗い出し、社内の抵抗勢力によって変革が失敗しないようリスク対策(抵抗管理)を講じます。具体的には以下の3つの原則を考慮して対策を立てますが、DXを実行するメンバーはこうした人の意識や考え方にも十分に配慮しながら取り組みを推進することが重要になります。
抵抗管理で重要な3原則
1) ゴール、変革がもたらすもの、変わらなければ発生する損失を伝える
なぜ変わらなければいけないのか、変わることによってどのようなベネフィットがあるのか、何を目指しているのかに納得しないと人は動きません。そのため、必ず「ゴール」「変革がもたらすもの」「変わらなければ発生する損失」を明確に伝えるということを行います。気を付けるべきポイントとして、変革メンバーの視点でなく、相手の視点に立ってこれらを伝える必要があります。なぜならば、人は自分に関係すること、興味があることしか、耳に入らないからです。
「伝えた」=「伝わった」ではないことを念頭に置いて、伝える内容を構成する必要があります。
2) できるだけ早い段階で変革の活動に巻き込む
人は自分の計画には反対はしません。変革の計画を立てるときに、意見を聞いて、よりよい計画をつくることで味方になってもらえるという効果があります。最初の段階で巻き込んでおかないと、変革を他人事ととらえ、協力を得られなくなる可能性があるので早めの対応が重要です。
3) 変革のステップを実行しやすいものにする
変わるためにやらなければいけないことが難しいと、人は動こうとしません。いくらやる気があっても、やることが難しければ人は戸惑い、前に進むのをやめてしまいます。
そのため、やるべきことを実行しやすいレベルにブレイクダウンして、無理なく実施できるようにお膳立てすることがキーとなります。
おわりに
このようにDX推進のためには、まず自社内で求める人材を明確にした上で、デジタル技術の導入を加速させるためにそれぞれの能力や強みをうまく組み合わせていく必要があります。同時に、デジタル技術を活用した先に広がるビジネス機会を捉えられるよう、目指すゴールを示しながら組織風土を変革していくアプローチが欠かせません。
なお、DXに関連した連載記事は以下にまとめていますので、是非ご覧ください。
<連載記事一覧>
1. あらためてデジタルトランスフォーメーション(DX)とは
2. DX(デジタルトランスフォーメーション)に成功している企業の特徴や事例とは
3. DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な人材とは
4. DX人材に求められるスキルとは
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