基幹システムの老朽化に関する「2025年の崖」や、ERP最大手のSAP社のサポート終了に関連する「2027年問題」について、お聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか。これらの問題に対処するためには、ERPの刷新や基幹システムの再構築が重要となります。では、そもそもERPや基幹システムとは何でしょうか。
本記事では、ERPや基幹システムの概要を改めて整理してご紹介するとともに、ERP刷新や基幹システムの再構築に向けて直面する課題や、これらの課題を解決するための方法をお伝えします。
ERPとは
はじめに、ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略称で、日本語では「統合基幹業務システム」や「基幹システム」と呼ばれることが一般的です。他にも「ERPパッケージ」「ERPシステム」「業務統合パッケージ」などの名称で表現されることがあります。
ERPは、企業における「会計」「人事」「生産」「物流」「販売」など、経営の中核を担う主要な業務プロセスを一元的に管理し、業務の効率化を図るために開発されたシステムです。このシステムにより、複数の業務領域が統合されることで、各部門間の情報共有が円滑になり、企業全体の生産性向上や迅速な経営判断が可能になります。
また、「ERP」という言葉は、もともと経営学における「資材所要量計画(MRP)」という生産管理手法に由来しています。MRPとは、主に製造業において在庫管理から配送までの一連の流れを効率的に実行するための供給管理システムを指します。このMRPの考え方を発展させ、企業全体の経営資源を最適化し、効率的に活用するために登場したのがERPという概念です。
ERPと基幹システムの違い
冒頭で、ERPは「基幹システム」とも呼ばれることがあると述べましたが、厳密には両者の意味には若干の違いがあります。基幹システムとは、会計や人事などの基幹部門における業務データを個別に管理するための独立したシステムを指します。一方、ERPは、こうした基幹部門の業務を統合し、全体を一元管理することを目的としたシステムです。
ERPと基幹システムのおもな違いを整理してお伝えすると以下になります。
ERP | 基幹システム | |
対象範囲 | 複数の業務プロセスを統合管理 | 個別の業務プロセスを管理 |
システムの連携範囲 | 統合されたプラットフォーム上で運用され、部門横断的なデータ共有が可能。 | 部門ごとに独立して運用されるため、システム間の連携が制約される場合がある。 |
導入効果 | 部門間の情報連携を通じて、企業全体の意思決定や経営効率の向上を実現する。 | 部門単位での業務効率化や管理精度向上に寄与する。 |
あらためて「2025年の崖」と 「2027年問題」とは
2018年に経済産業省はDXレポートを発表し、アーキテクチャ・プログラミング言語・既存の基幹システム(いわゆるレガシーシステム)が複雑化・ブラックボックス化しているため、2025年以降、その維持・管理コストがIT予算の9割以上に達するリスクを警告しました。
「2025年の崖」というタイトルでも知られる同レポートでは、IT人材不足に重なる事態により企業の国際競争力の減退や12兆円もの経済損失が生じる可能性を指摘しており、IT業界を中心に大きな注目を集めたことは記憶に新しいところです。
このほか、基幹システムをめぐってはERP最大手のSAP社がERP 6.0の標準サポート[SCM(サプライチェーン管理)やCRM(顧客関係管理)機能を追加したSAP Business Suiteなど)を2027年末までに終了する「2027年問題」が控えています。
こうした問題に対応するためには、ERPの刷新や基幹システムの再構築に着手することが欠かせません。ただ、人材や専門知識が限られる中、実際にどのように進めればいいのか、頭を悩ませる企業担当者も少なくないと思います。
具体的にはどのような課題があるのでしょうか。ここで改めてERP刷新/基幹システム再構築においての課題を整理したいと思います。おもに下記が課題として挙げられます。
- 国内IT人材の枯渇
- 業務有識者不足
- 基幹システム導入における、ベンダー企業への依存性の高さ
国内IT人材の枯渇
システムの見直しを進めるには、既存システムに関する深い知見を持つ技術者と、新たに導入を検討する先端技術に詳しい技術者の両方が必要です。特に、レガシーシステムの刷新、いわゆるモダナイゼーションを進めるには、その歴史的背景を理解することが重要です。
これまでにも、レガシーシステムに関連した大規模な見直しが行われた時期がありました。例えば、「2000年問題」への対応として一斉に行われた第1次モダナイゼーションブームや、メインフレーム技術者の定年退職が本格化した「2007年問題」に端を発する第2次モダナイゼーションブームです。レガシーシステムは、こうした課題を乗り越えながら長年運用されてきたシステムといえます。
しかし現在、当時のシステムを知る熟練技術者は転職や定年退職により急速に減少しており、ERPや基幹システムのブラックボックス化が進んでいると指摘されています。特に、レガシーシステムで多用されているCOBOLのような古いプログラミング言語に精通したエンジニアの多くが高齢化しており、定年退職とともにその数は年々減少しています。
一方で、若手エンジニアはAIなどの最新技術を優先的に学ぶ傾向が強く、古い言語を習得する機会が乏しいため、これらのスキルを持つ新しい技術者が育たない状況にあります。レガシーシステムを扱えるエンジニアの不足が加速し、システムのブラックボックス化がさらに進む懸念があります。
実際、大手企業で運用されているERPや基幹系システムの過半数が導入後20年以上経過しており、2025年には21年以上稼働しているシステムが全体の6割に達するという調査結果もあります。こうした状況から、2020年代後半には多くの企業がシステム老朽化という課題に直面すると予測されますが、それを保守・管理できる人材は年々減少しています。
そのため、システムの見直しを先延ばしにすればするほど、人材不足という課題が一層深刻化することが懸念されます。早急な対応が求められる状況といえるでしょう。
業務有識者の不足
ERPの刷新や基幹システムの再構築において、特に重要となるのが開発時や導入時のテスト作業です。ERPや基幹システムは企業の資産を管理するシステムであり、とりわけお金に関わる部分でのミスは許されません。
一般的なテスト手法として、データ移行後に新旧両システムの出力や表示を比較する方法があります。このようなテストは、特別な知識がなくても実施可能なため、多くの人材で対応することができます。
しかし、実際の業務の流れに沿った検証や業務観点での確認といったテストは、業務知識を持った人材でなければ実施できません。こうしたテストを怠ると、システム運用開始後にクリティカルな不具合が発生するリスクが高まります。
そのため、業務に精通した人材をテスト作業に確保することは非常に重要です。しかし、IT人材の不足が深刻化している現状では、業務知識を持つ多くの人材が開発業務に割り当てられており、テスト作業に十分なリソースを割くことが難しい状況にあります。
このように、業務知識を備えたテスト担当者の確保が困難となっており、これがシステム開発や導入における大きな課題の一つとなっています。
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基幹システム導入における、ベンダー企業への依存性の高さ
デジタル化の進展や働き方の変革が進む社会において、企業のビジネスが多角化・多様化する中、既存のシステムに新しいものを重ねる形で統合されるケースが増えています。その結果、システムの複雑化や互換性が十分に確保されていない状態で運用されていることが少なくありません。
また、IT部門と現場の利用者との間で温度差があるため、重要なシナリオが十分に検証されないままシステムがローンチされることや、ベンダーに任せきりになることも見受けられます。これにより、ERPや基幹システムの導入そのものにおいて、企業側の主体性が欠如しているという課題が浮き彫りとなっています。
課題解決に向けて
ERP刷新/基幹システムの再構築には、こういった人材不足や有識者不足という課題を解決していく必要があります。人材不足を解消し、プロジェクトを成功へ導くためには、外部のコンサルタントや知見のあるエンジニア、オフショア人材を上手く組み合わせた体制の構築、社内のコア人材を早期に教育していくことが鍵になります。
特に導入時のテスト作業では、人材不足の影響が顕著に表れています。有識者が不足しているため、導入先のユーザーがテストを実施せざるを得ないケースが多く見られます。その結果、通常業務に支障をきたしたり、ユーザーに過度な負担がかかったりすることが少なくありません。また、こうした場合、エンジニア視点でのテスト漏れが多発し、稼働後に重大な問題が発生する事例も報告されています。
テストはERP刷新や基幹システム再構築において極めて重要な工程です。以下に挙げるようなテストを、適切なスキルと知識を持つ人材が実施することで、安全かつ確実にシステムを稼働させることが可能となります。
- プログラムベースの単体テスト
- 製品観点での機能テスト
- 業務観点での機能テスト
- 実際の業務フローに沿ったシナリオテスト
- 不具合を洗い出すためのアドホックテスト
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ここまでテストはERP刷新や基幹システム再構築において重要であることをお伝えしてきましたが、テストに関する相談先としてSHIFT ASIAを検討してみてはいかがでしょうか。
SHIFT ASIAは、SHIFTグループの海外拠点として日本国内のIT人材不足に対応すべく、バイリンガルエンジニアによる開発・ソフトウェアテスト業務を行っています。特に国内外のERP/基幹システムへの豊富な評価実績を持ち、ERP/基幹システムに関する業務ナレッジが貯まっています。
これらのナレッジを以下のように落とし込み、属人性を排除した「ERP特化サービス」として提供しています。
- 業務ベースの教育を行ったERP特化型のテストエンジニア
- SAP専門組織/ABAPエンジニア
- 業務ベースのERP専用のテスト項目
- 業務フロー一覧
- テストデータ一覧
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