はじめに
ベトナムを拠点にシステム・ソフトウェア開発を手掛ける流れが加速する中、システム開発工程にベトナム人エンジニアを活用した開発モデルにあらためて注目が集まっています。こうした開発モデルを取り入れた企業は今、V-Tech(ブイテック)企業と呼ばれ、IT業界関係者のみならず株式市場関係者などからも高い関心が寄せられ始めています。そこで今回は、システム開発を支える2022年のトレンドワード候補として、V-Techをご紹介したいと思います。
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V-Tech(ブイテック)とは
V-Techとは、文字通りベトナム(Vietnam)のVとテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語です。今のところ特に専門家が明確な定義などを発表しているわけではありませんが、ベトナム発の技術や人材を活用し、新たなシステムや革新的なサービスの開発などを行う潮流、さらにはそうしたサービスを提供するシステム開発会社やスタートアップ企業を指しています。
ベトナムには現在、ベトナム系や日系、欧米系など、出資母体を異にするさまざまなV-Tech企業が存在しますが、他国と比較した際に際立つ優位性のひとつとして経済品質、すなわち予算や開発期間などの与えられた条件の中で最適な品質を提供することができるという点が挙げられます。
ベトナムはソフトウェアエンジニアの平均賃金がグローバル基準と比べるとまだ低い半面、技術力や日本語能力の高い開発者やテストエンジニアなどを最も確保しやすい国のひとつであり、限られた条件の中でコストメリットを活かしながらスピーディーに開発を進めるための拠点として近年大きく成長してきました。また、最近では実力をつけたゲーム開発会社が開発したサービスが世界的にヒットしたり、海外の投資ファンドからの出資が増えたり、さらには株式市場に上場する開発会社も登場するなど、ベトナムのテクノロジー企業に対してはITやベンチャー投資、さらには証券業界などから熱視線が注がれています。
V-Techが今、注目を集めるワケ
日本でV-Techが注目を浴びている要因のひとつに、ここ数年でSun Asterisk(4053)やハイブリッドテクノロジーズ(4260)といったベトナムを拠点に顧客向けにソフトウェア開発を手掛ける企業が相次いで新規株式公開(IPO)を果たしたことが挙げられます。両社は現在、日本の新興株式市場である東証マザーズに上場しており、日本の投資家からも期待を集めるなど、近年のV-Techの勢いを体現する存在のひとつと言えます。
さらに、コロナ禍にもかかわらず、日系企業が自社のシステム開発拠点をベトナムに設立し、ベトナム人エンジニアを活用して自社サービスの開発を強化する動きが加速していることも見逃せません。2020年以降だけでも大手高速バス事業者のWILLERや、静岡県浜松市を拠点に鉄道やバス事業などを手掛ける遠州鉄道、さらにはネット印刷や物流サービスを手掛けるラクスル(4384)、クレジットカード、カードローンを展開する楽天カードなどがベトナムに開発拠点を設立しています。詳しくは以下の記事でもご紹介していますので、ご興味があれば是非ご覧ください。
ベトナム発のユニコーン企業に世界も注目
また、ベトナム人の優秀かつ意欲的なエンジニアが創業したテック系スタートアップ企業が世界的に注目を集めつつあることも、V-Tech企業の高い技術力を裏付ける証になっています。ベトナムの現地メディアであるVietnam Investment Reviewの分析によると、ベトナムには2021年10月時点で推定で3社のユニコーン企業が誕生しています。ユニコーン企業とは評価額は10億米ドル(約1,150億円)以上、かつ創業10年以内の非上場企業を指しますが、ベトナムのテック系スタートアップ企業であるVNG、VNLIFE、Sky Mavisの3社がユニコーン企業に該当するとされています。
一方、日本のユニコーン企業は現在10数社とされています。日本とベトナムの経済規模が名目GDPベースで約19倍(2020年実績で日本が5兆487億米ドル、ベトナムが2711億6000万米ドル、JETRO調べ)もの差があることを踏まえると、ベトナムにユニコーン企業が3社存在することは注目すべきポイントと言えるでしょう。次に、日本ではまだあまり知られていないこの3社についてそれぞれ簡単にご紹介したいと思います。
ベトナムNo.1メッセンジャーアプリなどを手掛けるVNG
VNG corporation(本社:ホーチミン市)は2004年創業の大手インターネット企業です。
同社は主にオンラインゲーム、Webやアプリを軸としたプラットフォームサービス(コミュニケーションツール、EC、ニュースポータル、エンターテイメントコンテンツなど)、金融サービス、クラウドサービスの4事業を展開しています。特に、日本のLINEに匹敵するベトナムで最も使われている地場のメッセンジャーアプリ、ZALOの運営会社としても知られており、ベトナムで最も有名なネット企業のひとつです。
VNGは既に東南アジアの有力スタートアップとして以前から世界のベンチャーキャピタル(VC)などから高い注目を集めており、中国の大手テクノロジー企業であるテンセントや日本のサイバーエージェントなども出資を行ったことで知られています。
電子決済大手のVNLIFE
VNLIFE Corporation (本社:ハノイ市)は2007年に創業したベトナムの電子決済サービス大手の「VNPAY」の持ち株会社として、2018年に設立されました。
VNPAYはQRコードを使用し、飲食店や買い物、タクシーなどでの支払いをスマートフォンで簡単に済ませることができる決済サービスを提供しています。QRコードを活用した決済サービスを手掛けている大手という意味では、日本のPayPayに似た存在とも言えるでしょう。グループ全体ではエンジニアを中心に既に4000人を超える社員を抱え、ベトナムのみならず、シンガポールやカンボジアなどにも多国間展開しています。
また、VNPAYの親会社であるVNLIFEに対しては2019年にソフトバンク傘下のビジョン・ファンドとシンガポール政府投資公社(GIC)がそれぞれ2億米ドル、1億米ドルを投資したことでも大きな話題を集めました。
<参照>Vietnam Investment Review, “VNLIFE bags$300 million investment from Softbank and GIC”
大人気ブロックチェーンゲーム、Axie Infinityを運営するSky Mavis
分散型台帳技術であるブロックチェーンを活用した”Play-to-Earn”(P2E、遊んで稼げる)ブロックチェーンゲームが世界的な人気を集めるようになっていますが、人気ゲームのAxie Infinity(アクシー・インフィニティ)を開発、提供しているのが2018年に設立されたSky Mavis(本社:ホーチミン市)です。創業からわずか3年でユニコーンまで成長するという圧倒的なスピード感から同社は今、最も勢いに乗っているベトナムのスタートアップ企業の1社と言えます。
Axie Infinityは、日本でも大人気の「ポケットモンスター」シリーズのように、Axie(アクシー)と呼ばれるデジタルペットを収集、育成し、他のプレイヤーとバトル(対戦)するゲームです。同ゲームは暗号通貨のイーサリアム(ETH)をベースとしており、育てたデジタルペットはNFT(Non-fungible token、非代替性トークン)と呼ばれる偽造が不可能な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータを取引できるNFTマーケットプレイスで販売することが可能です。
Axie Infinityはベトナムはもちろん、フィリピンやインドネシアなどの新興国を中心に世界中にユーザーが広がっており、2021年12月末時点の1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)は300万人に迫る勢いで急成長しています。
<参照>
Vietnam Times, “First Vietnamese Tech Dollar Billionaire in Blockchain Game Sky Mavis”
BitPinas, “Axie Infinity Approaching 3 Million Daily Active Users”
おわりに
今回はベトナムのIT、テクノロジー業界の勢いを語る上で是非知っておきたいキーワードとして、V-Techをご紹介しました。ベトナムを拠点にしたシステム開発会社の上場や新設、さらにはベトナム発のテック系ユニコーン企業の誕生など、ますます注目を集めるV-Tech界隈の中にあって弊社SHIFT ASIAもV-Techを担う一角として今年もより存在感を発揮できるようお客様の課題解決に注力していきます。
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