サーバントリーダーシップとは|注目を集める、支援型リーダーのあり方(前編)では、主にサーバントリーダーシップとは何なのか、どうやって生まれ、なぜ注目を集めるのか、従来のリーダーシップと何が違うのかといった概要を中心に紹介しました。
後編では、よりサーバントリーダーシップの実践や改善のために役立つ情報として、サーバントリーダーが備えるべき特性や、メリットやデメリット、実践する上での課題やポイントなどについて、自身の体験も交えてご紹介します。
本記事がサーバントリーダーに対するより深い理解や、実行・改善における何かのきっかけになれば幸いです。
1. サーバントリーダーシップとは|注目を集める、支援型リーダーのあり方(前編)
2.サーバントリーダーシップとは|注目を集める、支援型リーダーのあり方(後編)
サーバントリーダーの10の特性
これまでに多数のサーバントリーダーシップに関する書籍の執筆や編集に携わり、その啓蒙活動を行うグリーンリーフ・センターのCEOを務めていたラリー・スピアーズ(氏)は、サーバントリーダーに極めて重要とされる10の特性を提唱しています。
これらの特性はサーバントリーダーを目指す上で意識し身に着けるべき特性であると同時に、また実践のなかでその評価や改善に役立つ指標としても用いることができる重要な情報ですので、こちらでご紹介します。
なお以下の内容は、スピアーズ氏によって記された、Character and Servant Leadership: Ten Characteristics of Effective, Caring Leadersの内容を参照しています。
1.傾聴(Listening)
サーバントリーダーは、何よりもまず、チームメンバーの声に熱心に耳を傾けることが重要とされています。
傾聴によって彼らが話すこと、考えていること、本当に求めていることを理解することは、サーバントリーダーとしてチームに奉仕するための前提条件です。
またここで述べられている傾聴は、他者だけでなく自分自身の心の声に耳を傾けることも含まれます。
自身に対する傾聴と、そこから得られたフィードバックによって考えをさらに深めることは、サーバントリーダーとしての成長にもつながるとされています。
傾聴は10の特性の1番目に挙げられていることから、サーバントリーダーの特性として極めて重要であると考えられます。
2.共感(Empathy)
サーバントリーダーは、チームメンバーに共感し、また彼らを理解するために力を注ぎます。
人間にとって、自分の存在を認められ、受け入れられていると実感できることは非常に重要であり、それによって心理的な安心や自信をもって働くことができます。
サーバントリーダーは積極的な共感によりチームメンバーを受け入れ尊重し、決して人間として拒絶するようなことはしません。
スピアーズは、共感をもった傾聴を行えることが優れたサーバントリーダーの条件と述べています。
3.癒し(Healing)
人は誰でも傷ついたり、時にはやる気をなくしたりすることもあるでしょう。
それはチームメンバーだけでなく、リーダー自身にとっても同様です。
自分自身も含め、そうした人々を癒し、勇気づける力を持つことがサーバントリーダーには重要とされています。
サーバントリーダーは、関わる人々に対して癒しを与える機会があることを常に認識し、実践します。
4.気づき、認識(Awareness)
物事に対する確かな認識力を持つこと、特に優れた自己認識力を持つことはサーバントリーダーにとって重要です。
正しい認識ができることは多くの状況において物事をより正確に把握することにつながり、倫理や権力、価値感に関わるような複雑な問題の理解を助けます。
5.説得(Persuasion)
サーバントリーダーは組織内でコンセンサスを得ることを得意とし、リーダーとしての権威を用いるよりも、説得を通じて組織における意思決定を行います。
強制ではなく説得を試みるというこの姿勢や態度は、従来の支配型のリーダーシップと支援型のサーバントリーダーシップの最も明確な違いの1つです。
6.概念化(Conceptualization)
サーバントリーダーとしてチームを導くためには、チームが一つになるようなビジョンやコンセプトを生み出し、それを伝えて浸透させる必要があります。
そのためにサーバントリーダーは、日々の業務に関することに加え、より概念的なことを考えることができるように思考の幅を広げることが重要です。
7.先見力、予見力(Foresight)
先見力とは、過去からの教訓や現在の状況を理解し、将来の判断の結果を予測する能力です。この能力は、直感とも深い関わりがあります。
この未来を予見する力は、サーバントリーダーがチームを正しい方向に導くために重要な特性の1つです。
8.スチュワードシップ(Stewardship)
スチュワードシップとは、「信頼して重要なことを任せられること」を意味します。
サーバントリーダーはスチュワードシップを持ち、その上でメンバーのニーズに徹底的にこたえ、チームの利益のためにその役割を果たします。
9.人々の成長へのコミット(Commitment to the Growth of people)
サーバントリーダーは、人間というものは労働の貢献という枠を超えて、そもそも本質的な価値を持っていると信じています。
その価値を最大化するために、サーバントリーダーは人々の成長に深くコミットし全力で取り組みます。
サーバントリーダーは、同じ組織で働く従業員や同僚の成長を支援するためにあらゆる手を尽くすべきであるという認識の下、責任を持って具体的に以下のような取り組みを推進します。
・人材教育に投資するための資金の調達
・まわりからのアイデアや提案に対する個人的かつ前向きな意思表示
・意思決定に対するメンバーの関与の奨励
・成長機会を提供するための積極的な配置換え
10.コミュニティづくり(Building community)
人間らしく充実感をもって働くためには、コミュニティのような人々とのつながりが必要不可欠です。
サーバントリーダーは、ともに働く人々の間でコミュニティを形成するための手段を積極的に模索し、コミュニティを築きます。
こちらでご紹介した10の特性は、サーバントリーダーが備えるべき特性であると同時に、これからサーバントリーダーを目指す上での指針でもあり、またサーバントリーダーとしての評価や振り返りにも役立てることが可能です。
またサーバントリーダーの特性として、特に「傾聴」「共感」「癒し」が上位に位置づけられ重要視されているということは、従来のリーダー像との対比において象徴的かつ、非常に興味深いものとなっています。
リーダーとしての在り方に悩まれている方や、これからサーバントリーダーを目指す方、あるいは既に実践されている方はぜひ、この「サーバントリーダーの10の特性」を参考にしてみてはいかがでしょうか。
サーバントリーダーシップのメリット
組織におけるリーダーがサーバントリーダーとなることによって、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
自身がサーバントリーダーシップを取り入れた経験や、サーバントリーダーが率いる組織で実際に働いた経験などをもとに、サーバントリーダーシップによって期待できるメリットについてご紹介します。
1.主体性の向上
リーダーによって目標やビジョンが共有され、それが組織に浸透することで、メンバー自身が主体性をもって能動的に動けるようになります。
特にその内容がメンバー自身にとっても魅力的で有意義だと感じられる場合、モチベーションの向上も期待でき、結果としてより高いパフォーマンスの発揮にもつながります。
またメンバーが主体性に行動をし始めることで、同時にマネジメントのコスト低下も期待できます。
もちろんメンバーに対する継続的な支援は必要となりますが、一人ひとりが方針を理解し、同じビジョンの実現のために進んでいるのであれば、細かな部分まで逐一管理・指示するようなマイクロマネジメントの必要性が薄れるからです。
なお高い主体性をもつメンバーが集まるチームの運営には、スクラムの考え方がとても参考になります。スクラムはソフトウェア開発に限らず、あらゆるビジネス領域で活用が可能なフレームワークのため、宜しければ併せてご参照ください。
スクラムとは|スクラムの定義や特徴、体制とチーム内の役割
デイリースクラムとは|その目的や具体的なやり方、実施のポイントをご紹介
2.成長意欲が高まる
メンバーが主体性をもってモチベーション高く仕事に取り組めるようになると、仕事のパフォーマンスを高めたい、仕事の幅を広げたい、あるいは課題を解決したいという気持ちが自然と湧いてくるものです。
サーバントリーダーはそうしたメンバーの成長にコミットし、成長を支援するような取り組みを積極的に行うことで成長意欲が刺激され、メンバーのスキル向上が期待できます。
具体的な取り組みの例としては、書籍購入やオンラインレッスン受講の費用補助、資格取得支援、勉強会の企画などが考えられるでしょう。
弊社SHIFT ASIAでも成長を支援する取り組みとしてスキル向上のための資格取得を奨励しており、社内勉強会や資格受験費用の補助といった支援を行っています。
高い成長意欲を背景に、押し付けるのではなく支援するという奉仕的なアプローチによって、それぞれのメンバーが主体的に能力開発を行う風土が根付いており、一定の成果につながっています。
社員17名がISTQB認定アジャイルテスター資格を取得しました
試験対策は1カ月半、スクラムマスター資格PSMⅡに一発合格した私の勉強方法
ソフトウェアテストの国際的な資格認定団体ISTQB®のPlatinum Partner(プラチナパートナー)に認定
3.コミュニケーションが円滑に
リーダーがコミュニティの形成に積極的に取り組むことで、人と人とのつながりが強化され、互いが信頼関係で結ばれるようになります。
信頼関係によって心理的な安全性が担保され、その結果「言いたいこと」や「言いたくないけれども、言うべきこと」を言いやすくなります。
これはチーム内でのコミュニケーションをより円滑にし、互いに指摘やアドバイスをしやすくなることから、メンバー同士がお互いを高めあえる関係性の構築にもつながります。
サーバントリーダーシップのデメリット
一方で、サーバントリーダーシップにはメリットだけでなくデメリットも伴います。
特にサーバントリーダーシップは支配型のリーダーシップに比べてリーダー・メンバーともに求められるレベルが高く、それに起因する形でさまざまなデメリットや実践における難しいポイントがありますので、こちらで主なものを取り上げてご紹介します。
1.組織を動かすための時間・工数が大きくなりやすい
サーバントリーダーシップでは、トップダウンで命令をするのではなく、ビジョンを示した上で、対話や信頼関係を通じて協力を得ながら物事を進めていきます。
そのため、組織を動かすために従来型のリーダーシップと比べてより多くの時間や工数、コミュニケーションコストを要します。またその難易度もトップダウン型に比べて高くなる傾向にあります。
また、ときには全体のコンセンサスを得ながら進めることが難しいような事柄について、多少強引に進めざるを得ない状況も出てくるでしょう。
したがって、実際のビジネスシーンにおいてサーバントリーダーシップを実践するには、組織が置かれた状況や制約に応じて柔軟な判断・対応ができるだけの経験や能力が必要となります。
2.成果が表れるまでに時間がかかりやすい
サーバントリーダーシップはメンバーとの信頼関係がベースとなり、それは決して一朝一夕に構築されるものではありません。
またリーダー自身がパフォーマンスを上げることよりも、メンバーの自主性や成長を重視しますが、人の変化や成長にもまた時間がかかります。
したがって、サーバントリーダーシップでは目に見える成果が表れるまでに時間がかかりやすいというデメリットがあります。
また企業におけるパフォーマンスの評価は、多くの場合四半期や半年、長くても一年間と比較的短期間での成果からなされることから、サーバントリーダーシップを導入しても短期的な評価には結び付きにくいという点にも注意が必要です。
こういったデメリットはサーバントリーダーシップを実践する上での大きな障害の一つとなります。リーダー自身の評価者やチームの関係者といったより広い範囲において、「サーバントリーダーシップとは何か」「組織にとってどんなメリットや意義があるのか」といったことを丁寧に説明し、効果が表れるまでに一定の時間を要することを理解してもらうことが重要です。
3.組織やメンバーによってはフィットしないことがある
これはあらゆることにも言えますが、サーバントリーダーシップはその組織や所属するメンバーの特性や性格によってはフィットしないこともあります。
サーバントリーダーシップは万能であり、他のリーダーシップに比べて絶対的に優れているというわけでは決してなく、とりあえず導入して実践してみれば良いという性質のものではありません。
相性が良くない人や組織に持ち込んだ場合、むしろ組織に混乱をもたらし、パフォーマンスが低下するといった悪影響すら生じかねません。
例えば、指示されたことをひたすらこなしていくという働き方の方が好きという人もいますし、高い自由度が与えられると逆に何をすればよいのかがわかりにくくなるという人もいます。
また自主性を重んじるリーダーシップであるがゆえに、一般的にメンバー自身で判断する範囲が広くなることから、メンバー自身にも一定の経験や能力が必要となります。
仕事のタイプについても、厳密なルールに従ってきっちりと決められたことを行うような仕事よりも、より自由度の高い仕事との相性が良いなど、サーバントリーダーシップの有効性に影響する要素は数多くあります。
したがって、サーバントリーダーシップの実践に際しては、そもそもそれが自分の属する組織やそのメンバーにフィットするかどうかを見極めることが極めて重要です。
その上で、組織やメンバーに応じてマネジメントスタイルを変えるといった工夫も必要となります。このことは、リーダーにもまた高い能力や経験が求められることを意味します。
さいごに
本記事では、サーバントリーダーシップの概要から、リーダーに求められる特性やメリット・デメリットといった実際の導入・実践に関わるトピックについて前編・後編にわたって紹介をしてきました。
サーバントリーダーシップは強力な反面、必ずしも万能というわけではなく、組織やメンバーとの相性があり、またリーダー・メンバーともに求められるレベルが高いという難点もあります。
しかし、それでもなお、変化の激しいVUCAの時代である現代において積極的に検討されるべきリーダーシップの一つであると考えます。
なぜならば、不確実な未来に向かうなかで出会う大きく複雑な問題の対処には、組織全体の多様な発想や能力を十二分に発揮することが必要不可欠だからです。その逆に、ハイパフォーマーであるリーダー自身の経験やノウハウを軸にしたトップダウン型のリーダーシップの有効性は、例外こそあれ長期的には徐々に限定されていく可能性が高いと考えられます。
したがって、組織全体のパフォーマンスに大きな影響を与えるリーダーとして、特定のリーダーシップに固執するのではなく、変化し続ける状況や組織・メンバーに合わせて柔軟にそのあり方を変えながら、適切に使い分けられることが望ましいと言えるでしょう。
リーダーという重要な立場であるからこそ現状に甘んじず、常に組織のことを考えてリーダーとしての在り方を積極的にアップデートしていくことこそが、これからの時代においてますます重要となるのではないでしょうか。
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