前回の記事「スクラムとは|スクラムの定義や特徴、体制とチーム内の役割」ではスクラムの定義にはじまり、スクラムがどういった体制・役割によって運用されるかについてご紹介しましたが、今回はその続編としてスクラムにおける重要な要素である「スクラムイベント」について、前回同様スクラムガイドを参照しながらご紹介します。
前回はスクラムの概要紹介が主でしたが、今回はスクラムにおいて具体的に「いつ」「誰が」「何をするのか」といった運用に関するトピックが中心となります。
スクラムの運用の流れと合わせて、「スプリント」や「デイリースクラム」、「スプリントレトロスペクティブ」「バックログ」といったスクラムイベントに関する用語や考え方についての理解を深める上で、こちらの記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
<スクラム連載記事一覧>
1. スクラムとは|スクラムの定義や特徴、体制とチーム内の役割
2. スクラムイベントとは|スクラムにおけるスプリントと4つのイベント
3. スクラムの3つの作成物|プロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメントについて
スクラムイベントとは
スクラムイベントとは、成果物を作成すること、およびその検査と適応を目的として実施される、スクラムにおいて規定されたイベント群です。
各イベントはスクラムガイドにおいて定義されており、状況や課題を可視化することで、検査・適応に必要な透明性を実現します。
前回の記事でもご紹介したように、「透明性」「検査」「適応」はスクラムにおける三本柱として、スクラムを機能させるための前提条件であることから、その達成は極めて重要です。
スクラムイベントには、以下のような特徴があります。
・内容が定義されている
・推奨のタイムボックス(各イベントの時間枠)が割り当てられている
・同じ時間と場所で開催されることが望ましい
スクラムは「価値を生み出さない無駄を省き、本質に集中する」という「リーン思考」に基づいており、無駄を最小限に抑えることが非常に重要とされています。
そのためにイベントは複雑さを低減し、なるべくシンプルでやるべきことが明確になるよう設計されています。
またイベントに費やすことができる時間も制限されており、必要なことのみにフォーカスし極力無駄を省くべきという思想が現れています。
スクラムにおいては定義されていない会議は原則行うべきではないとされていますが、これも同じ理由からです。
これはスクラムでのイベントに対する中心的な考え方ですが、必ずしもスクラムのみに限らず、通常の仕事においても活かせる考え方ではないでしょうか。
スクライムガイドでは、スクラムイベントとして4つのイベントを正式なイベントとして定義しています。また、それらを抱合するイベントのことを「スプリント」と呼びます。
スプリントは4つのイベントの入れ物と見なすことができ、各イベントは以下のような構造になっています。
スプリント
├スプリントプランニング
├デイリースクラム
├スプリントレビュー
└スプリントレトロスペクティブ
各イベントについて、詳しく見ていきましょう。
スプリント
スプリントとは、アイデアを価値に変える工程のことです。
具体的には、スクラムチームの開発者が実際に作業を行い、成果物をつくる工程のことを指します。
スプリントは「短いプロジェクト」とも考えることができ、そのように考えると非常に理解しやすいのではないでしょうか。
期間としては基本的に1ヵ月以内の決まった期間とすること推奨されており、プロダクトゴールが達成されるまで反復的(イテレーティブ)に何度も繰り返されます。
期間についてはプロダクトや組織など様々な状況によって変動しますが、一般的には2週間程度を採用するケースが多いようです。
基本的な考え方としては、成果を上げるのに十分であり、かつ何度も繰り返すことを前提とした場合に長すぎない期間とする必要があります。
これは開発からリリース、それらを通しての学習や適応を素早く何度も繰り返し、不確実な状況に対する予測可能性を高め、変化に合わせて精度を上げるためです。
これはプロダクトを開発する上でのリスクや複雑性の低減につながります。
続いて、スプリントに含まれる各イベントについて見ていきましょう。
スプリントプランニング
スプリントプランニングとは、スプリントの最初に行うイベントであり、スクラムチーム全体でスプリントの作業計画を立てることです。
この作業計画にはスプリントの目的と成果物の作成計画が含まれ、このスプリントにおいて「何のために・何を・どのように作るのか」が明らかにされます。
スプリングプランニングのポイントをまとめると、以下のようになります。
実施タイミング:スプリントの最初
参加者:スクラムチーム全員(必要に応じてチーム外の人を招待しても良いとされています)
タイムボックス:スプリント期間が1ヵ月の場合は最大8時間(2週間の場合は最大4時間程度)
具体的には、スクラムチームはスプリントプランニングにおいて以下のことに対応します。
1.スプリントゴールの設定
スクラムチーム全体で、「このスプリントでプロダクトをどう改善するのか」「このスプリントになぜ価値があるのか」「このスプリントは何のためにあり、なぜやるのか」を決定し、スプリントゴールとして定義します。
スプリントゴールはステークホルダーへの説明に用いるほか、スプリントの目的や意義を明らかにすることでチームが自律的に判断し動くことができる礎となります。
またゴールを定義することで、結果的に開発者の作業や手順に柔軟性が与えられます。
なお、ここで設定したスプリントゴールが環境の変化や何らかの理由によってスプリントの途中で役に立たたなくなった場合、スプリントは中止されることもあります。
スプリントを中止する権限は、プロダクトオーナーだけが持つとされています。
2.プロダクトバックログアイテムの選定
今回のスプリントにおいて、どのプロダクトバックログアイテムに対応するかを選択します。
プロダクトバックログについては前回記事でも少し触れましたが、プロダクトオーナーが作成するプロダクトの改善に必要なものの一覧のことです。
ここでは、必要に応じてプロダクトバックログアイテム自体の変更や修正(リファインメント)を行うこともあります。
なお一度のスプリント内でどれだけのタスクを完了することができるかについては、スクラムチームの経験が浅かったり問題が複雑な場合は予測が難しく、スプリント内で完了できなかったり、また逆に時間が余ってしまうこともあります。
予測精度については、スプリントを繰り返し学習を重ねることによって向上が期待できることから、経験が浅いうちはバッファを多めに積み、経験を積みながら調整していくといった工夫が有効です。
3.スプリントバックログの作成
2で開発者が選択したプロダクトバックログアイテムに対応する、具体的な成果物の作成計画を立てます。
この成果物は完成の定義を満たし、リリース可能な成果物(インクリメント)である必要があります。
1で設定したスプリントゴール、2で選択したプロダクトバックログアイテム、そしてインクリメントを提供するための計画をまとめてスプリントバックログと呼びます。
計画を立てる上で、基本的にはプロダクトバックログアイテムを1日以内の小さな作業アイテムに分解して計画に落とし込みます。
ここでのポイントとしては、具体的な作業計画は開発者の裁量によって決定されるということです。
スクラムチームにおける開発者の条件の1つとして、作業に必要なスキルや専門知識が求められるというのはこのためとも言えます。仮に作業計画が適切でなかったとしても、この後の検査と適応を通じて修正していくことが可能であり、そのために透明性が必要となるのです。
デイリースクラム
デイリースクラムとは、作業計画に基づいてスプリントゴールに対する進捗を検査し、適宜スプリントバックログを適応させることです。
具体的には、開発者が各自の進捗や課題を共有し、状況に応じてスプリングバックログアイテムの見直しやスケジュールの調整などを行います。
デイリースクラムは、スプリント期間中は毎日同じ時間・場所で開催することが推奨されています。一般的にはいわゆる朝会のような形で毎朝実施され、「前日実施した作業」「当日実施予定の作業」「課題」について共有するケースが多いようです。
デイリースクラムによって状況に透明性をもたらすことができ、進捗の乖離に対する早期対応やスクラムチームのコミュニケーションの促進、課題の特定や解決、意思決定を迅速にするという効果があります。
実施におけるポイントは以下のとおりです。
実施タイミング:スプリント期間中の毎日同じ時間(一般的には朝であることが多い)
参加者:開発者(スクラムマスターやプロダクトオーナーが開発を兼務している場合は、開発者として参加することも可)
タイムボックス:15分
デイリースクラムについて、詳しくはこちらの記事でも紹介していますので、宜しければ合わせてご参照ください。
デイリースクラムとは|その目的や具体的なやり方、実施のポイントをご紹介
スプリントレビュー
スプリントレビューとは、スプリントの最後から2番目に行われるイベントであり、今回のスプリントのインクリメント(完成の定義を満たし、リリース可能な成果物)をステークホルダーに提示し、プロダクトゴールに対する進捗についてレビューすることです。
プロダクトの開発の場合は、通常は実際に機能する・動くデモをこの場で見せることが一般的です。
スクラムチームとステークホルダーは、このスプリントで作成されたものがプロダクトゴールをどの程度達成したのか(また何が達成されていないのか)、そしてスプリントにおいてどんな状況や環境のアップデートがあったのかを明らかにし、レビューの結果に応じてプロダクトバックログの調整や今後行なうべきことを決定します。
実施におけるポイントは以下のとおりです。
実施タイミング:スプリントの最終盤(最後から2番目)
参加者:スクラムチームとステークホルダー
タイムボックス:スプリント期間が1ヵ月の場合は最大4時間(2週間の場合は最大2時間程度)
スプリントレトロスペクティブ
スプリントレトロスペクティブとは、スプリントの最後のイベントであり、スクラムチームで今回のスプリントがどのように進んだかを検査することです。
いわゆるスプリントの「振り返り」であり、スプリントにおいて発生した問題やその改善策の検討のほか、完成の定義やプロセスに関する見直しなども含まれます。
次回以降のスプリントにおいて、更に品質や効果を高めることを目的として実施されます。
スプリントレトロスペクティブの場で実施される振り返りの具体的な一例として、そのスプリントで「うまくいったこと」「うまくいかなかったこと」「どうやったら次のスプリントで改善できるか」について、振り返りのフレームワークであるKPTを用いて検討されることがあります。
KPTとはKeep・Problem・Tryの略であり、それぞれ「うまくいっているので継続すること」「問題であり改善が必要なこと」「新しく取り組むべきこと」を表しています。
この3つのテーマに基づいてチームで検討し、業務改善に役立てるという振り返り手法です。
KPTについては、こちらの記事で詳しくご紹介しています。宜しければ合わせてご参照ください。
振り返りのフレームワーク「KPT法」とは|そのメリットや進め方、実施のポイントについて
スプリントレトロスペクティブを最後に、スプリントは終了します。
プロダクトゴールが達成されていない場合は次の新しいスプリントが開始され、一連のスクラムイベントが何度も繰り返されることで徐々にプロダクトの価値が高まっていくことになります。
本記事ではスクラムの運用において重要となるスクラムイベントについてご紹介をしましたが、続編の「スクラムの3つの作成物|プロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメントについて」では、最後のトピックとしてスクラムの作成物についてご紹介しています。
宜しければ、合わせてご参照ください。
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